ゴー宣DOJO

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泉美木蘭
2018.3.7 16:15

遠慮のお弁当

今日は一日、出版社の会議室でブレストしながら本の台割を
作っていて、しまいに編集キャップがボールペン投げ出して
「こんなに勉強して、僕たちどんだけ真面目なんですかね!」
と言い出すほど根を詰めていた。

しかし、大きな会社は大変だ。
お昼に、外から来てる私に気を使って、デパートでちょっと
いいお弁当を買ってきてくれたんだけど、
お弁当を目の前に起きながら、なかなかみんな手をつけない。
私には食べろ食べろと勧めてくれるので、
遠慮なく箸を割ったんだけど、
SキャップもT編集も、一向にお弁当に手をふれない。
この編集会議に参加する予定のK部長がまだ来ていないので、
先に食べたら悪いかもと、二人とも遠慮しているのだった。

K部長は、「どうしたの? 早く食べなよ」ってあっさり
言いそうなキャラで、決してパワハラするような人ではないけど、
社内的な空気があるんだろう。
Sキャップは、誰かにちょっとコーヒーを頼むだけでも、土下座
しそうな勢いで「ごめんね、ごめんね、本当にごめんね」と謝る。

まあ私はさっさと食べて、さっさと作業にもどりたかったので、
台割見ながらぱくぱくやっていたら、そこへK部長が登場。
ああ、これでみんなそろって食べられるね。

すると、お弁当を見たK部長、なんと、

「あ、僕はいいよ」
「え!? 食べましょうよ」
「僕、このあとまたすぐ別の会議に出なきゃならないから、
『あいつ弁当だけ食べに来た』っていう形になるのは悪いからさ」

こうして、K部長がお弁当を遠慮したため、
Sキャップは、目の前のお弁当に添えていた手を引き、
そして、それを横目で見たT編集の手も引いてしまった。

「いやいやいや、Sくん、食べなよ」
「じゃあKさんもどうぞどうぞ」
「いやいやいや、僕は食い逃げになっちゃうから」
「いやいやいや、でも買ってきちゃいましたし」
「いやいやいや、じゃあこれ、Tさん、おやつにしなよ。
いいじゃない、今日は高級弁当だし。美味しそうじゃないか。
お腹がすいたら食べたらいいし、持って帰って夜食にでも。ね」

K部長は良かれと思って「高級弁当だし」「美味しそう」と言い、
すこしユーモラスに遠慮がちな姿勢を演出しながらお弁当を
押し戻したのだけど、
SキャップとT編集は逆に手を出しづらくなって迷っている。

弁当ひとつでこんなに空気の読み合いをしなきゃならないなんて、
なんて気の毒なんだ…。
空気を壊してあげたほうが良さそうだと思い、
エビをくわえたまま、

「とりあえず、食べながら、迷ったらいいんじゃなーーい?」

と言ったら、全員が笑ってくれて、ようやくSキャップは
「じゃ、迷いながら食べます」
と律儀に答えて、お弁当の蓋を開けた。
ふうううう。

そして、遠慮なく一番最初に食べ始めた私が、
一番食べ終わるのが遅かったのだった。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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